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パーキンソン病と発汗障害
 

Home > 医療コラム > パーキンソン病と発汗障害

2026年4月10日

発汗障害という症状は一般的に自覚しづらいものです。「なんとなく汗のかき方がおかしいな」と思っても、わざわざ病院を受診して相談するという方は少ないかもしれません。
しかし実際には、パーキンソン病における発汗障害は比較的頻度の高い非運動症状です。健常者での有病率が12.5%であるのに対し、パーキンソン病では64%に達すると報告されており、臨床的に見過ごせない症状といえます。

臨床像

パーキンソン病の発汗障害は主に多汗症として現れますが、一部の患者さんでは発汗低下を呈することもあります。
経過としては慢性持続性のものと、日内変動を示すものがあります。後者はジスキネジアやウエアリングオフといった運動合併症と密接に関連しています。具体的には、オフ状態での発汗過多(off sweating)や、ジスキネジアに伴う発汗過多が知られています。

分布の特徴

パーキンソン病では特徴的な発汗分布がみられます。体幹部・頭部など上半身の発汗過多と、四肢末端の発汗低下が組み合わさるパターンです。これは病気の進行に伴い四肢の汗腺機能が低下し、体幹部で代償性の発汗亢進が生じるためと解釈されています。手掌・腋窩優位の原発性多汗症とは明確に異なる、パーキンソン病に特異的な分布パターンです。

生活への影響

発汗障害は体温調節機能の破綻を招き、生活の質を大きく損ないます。暑さ・寒さへの過敏、夜間の著明な寝汗による衣類・寝具の頻回な交換など、睡眠障害や社会生活上の支障につながります。また、発汗過多を有するパーキンソン病患者さんでは抑うつの合併率が高いことも報告されています。

病態生理

発汗障害の機序は中枢性と末梢性の二つに大別されます。

中枢性の要因としては、体温調節中枢である視床下部へのレヴィ小体の蓄積が挙げられます。これにより発汗閾値やセットポイント(目標体温)が変化し、発汗調節に異常をきたすと考えられています。この機序は特に病初期の発汗異常の主因とされます。

末梢性の要因としては、交感神経系の変性があります。パーキンソン病では心臓交感神経を含む全身の自律神経終末の変性が生じることが知られています(MIBG心筋シンチグラフィでの取込低下など)。発汗に関与するエクリン汗腺へのコリン作動性交感神経や、皮膚血管のアドレナリン作動性経路にもレヴィ小体病変が出現することが示されています。このように末梢の交感神経がダメージをうけることで四肢の発汗低下を呈すると考えられます。

すなわち、初期は中枢性の調節異常が主体であり、進行期には末梢汗腺神経の障害が加わることで体幹部の代償性多汗がより顕著になるという、病期に応じた病態の推移が想定されています。

治療・対処法

現時点で発汗過多そのものに対する確立された治療法はありません。日本のガイドラインでは、まずパーキンソン病の運動症状の治療最適化が推奨されています。

オフ時の発汗過多に対してはオフ時間の短縮を目指した薬物調整(レボドパの投与回数の増加や持続性製剤への変更など)が基本となります。ジスキネジアに伴う発汗過多に対しては、薬剤調整によるジスキネジアの軽減が有効です。

さらに進行期の治療選択肢として、LCIG(レボドパ・カルビドパ経腸用液療法:レボドパを胃瘻を通じて持続的に投与する方法)や、STN-DBS(視床下核脳深部刺激術)が発汗障害の改善にも有効であったとの報告があります。これらのデバイス治療は運動合併症の改善を通じて、発汗の日内変動を軽減する効果が期待されます。

生活面での対策も重要です。高温多湿の環境を避ける、運動時や夏場のこまめな水分補給、アルコールや香辛料など発汗を誘発しやすい飲食物を控える、吸湿速乾性に優れた衣服を選ぶ、といった工夫が推奨されます。

おわりに

パーキンソン病の発汗障害は頻度が高い一方で、患者さんご自身が異常と認識されていないことも多い症状です。しかし上述のとおり、体温調節障害・睡眠障害・抑うつなどを介して療養生活の質に大きく影響します。根本的治療は困難ですが、薬物調整や生活上の工夫によりある程度の対処は可能です。「汗のかき方がおかしいかな」と感じることがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。


<参考文献>

Leta V, Van Wamelen D, Rukavina K, Jaakkola E, Sportelli C, Wan YM, et al. Sweating and other thermoregulatory abnormalities in Parkinson’s disease: a review. Ann Mov Disord. 2019;2(2):39-47. doi:10.4103/AOMD.AOMD_2_19.

日本神経学会 監修, 「パーキンソン病治療ガイドライン」作成委員会 編. パーキンソン病治療ガイドライン2011. 東京: 医学書院; 2011.

山元敏正. Parkinson病の自律神経障害:特に発汗系について. 自律神経. 2020;57(1):15-19. doi:10.32272/ans.57.1_015.


<執筆者プロフィール>

安部 真彰(あべ まさあき)
脳神経内科医/日本神経学会認定 神経内科専門医。山口大学医学部附属病院では 「パーキンソン病特殊治療外来」 を担当していました。現在は下松市のみずほ内科クリニック院長として内科、脳神経内科診療を行っています。パーキンソン病、アルツハイマー病などの神経疾患については周南市、光市など周南地区全体を診療圏としています。

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