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パーキンソン病で“二重に見える”原因と治し方|複視・輻輳不全を解説
 

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2025年7月28日

パーキンソン病の患者さんで「目が見えにくい」と感じる方は多いのではないでしょうか。通常、パーキンソン病は65歳以上の方が多いため白内障など老化に伴う目の異常で見えにくさが出現することが多いです。

一方でパーキンソン病に由来するものの見えにくさが存在します。これは通常あまり知られていない症状ですが、頻度は比較的高く、日常生活に影響することが多いとされます。治療自体が難しいことも多いのですが、中には対応可能なこともあるため今回はこれについて解説してみます。

パーキンソン病の複視

パーキンソン病の症状には運動症状と非運動症状があり、この非運動症状の中に「複視:ものが二つに見える」という症状があります。

パーキンソン病の症状

頻度は報告によって異なりますが、10~38%の患者さんに複視があり、非運動症状の重要な症状の一つと位置づけられています。他の報告でも健常者と比べてパーキンソン病患者で有意に複視の訴えが多いとされます。

複視がある場合、転倒や読書困難、運動制限の原因となり、患者さんの日常生活機能とQOLを低下させると報告されています。

複視の種類

パーキンソン病の複視は完全複視(complete diplopia:視野全体のものが二重に見える)と選択制複視(selective diplopia:特定の物体だけが二重に見える)にわかれます。

完全複視

目の動きに異常があり、眼位がずれてしまいます。この結果として目の焦点が合わなくなり、ものが二つにぶれてみえます。

選択的複視

幻視の一種と考えられています。実際に眼球の位置がずれているのではなく、中枢神経の視覚処理の異常として捉えられています。

複視の原因

輻輳障害

近方注視の際に両眼が十分に内寄せできない眼位異常で、特に読書時など手元を見る際に像が二重に見える主因となります。パーキンソン病では眼球運動の制御が低下することで、輻輳(vergence)の反応が鈍くなります。結果として近くのものをみるときに複視が出現したり、ピントあわせが困難になります。

眼球運動障害

パーキンソン病では眼球を動かす筋肉、神経に麻痺が生じることは稀ですが、中枢の眼球運動制御の異常により微妙な眼位ズレや追従運動障害が起こります。

サッケードと追従運動の異常

サッケード(急速眼球運動:例えば左右に素早く眼球を動かすような動き)の速度低下や正確性の低下が報告され、読書時の行の読み飛ばしや視線移動のズレにつながります。このような眼球運動機能低下が視線の協調を乱し、複視や視覚的な不安定さを生む可能性があります。

眼位の異常

軽度の眼位異常(斜視傾向)が生じることがあります。特に小角度の斜視が存在すると常時わずかな複視が生じますが、患者自身が適応(抑制)して気付きにくい場合もあります。パーキンソン病患者の眼位を精密に評価すると、健常者と比較してわずかな眼球運動の乱れが検出されており、こうした変化が複視の原因となります。

運動合併症との関連

ウェアリングオフ現象(薬効の切れ目に症状が変動すること)に伴い、複視が増悪するケースがあります。オフ状態では眼球制御がさらに低下し複視が自覚されやすく、逆にオン状態では不随意運動や過剰興奮により視覚情報処理が乱れて選択性複視が現れる、という両方向の機序が考えられます。

中枢性要因(幻視との関連)

選択性複視(selective diplopia)は、中枢神経系での視覚情報処理異常に起因し、視覚性幻視(visual hallucination)の一形態と考えられます。
これは、実際には対象が1つしかないのに脳が二重像を認識してしまう現象です。パーキンソン病では病状の進行によりにより幻視が生じやすくなりますが、複視も幻視・認知機能低下と強く関連することが明らかになっています。複視が出現したパーキンソン病では、認知機能低下や精神症状(幻視や妄想)の合併率が高いことから、大脳皮質レベルの病態を示唆するとの報告もあります。

眼科的要因の関与

純粋な眼科疾患や周辺組織の問題が関与する場合もあります。例として、パーキンソン病では瞬目が減少することによりドライアイや角膜乱視が生じやすく、これが片眼でも生じる単眼性複視(像のにじみやゴースト像)を引き起こすことがあります。また加齢に伴う白内障や屈折異常も複視様の症状を呈することがあります。

複視への対応

プリズム眼鏡による補正

輻輳不全や軽度の斜視による複視には、プリズム眼鏡による光学的補正が有効です。例えば近見時の複視にはベースインプリズムを組み込んだ老眼鏡で像を補正し、読書などを容易にします。プリズム度数は眼科で測定し、眼鏡の処方箋を発行します。また、輻輳トレーニング(ペン先凝視訓練等)によって輻輳力を改善させる試みも有効とされます。

眼鏡使用の工夫

二重焦点眼鏡(遠近両用)や累進レンズは避け、遠用と近用の単焦点眼鏡を分けて使用することが推奨されます。パーキンソン病では前傾姿勢になることが多いため、二重焦点の視野切替が難しく、転倒リスクを高める可能性があります。代わりに衝撃に強い素材(ポリカーボネート等)の単焦点眼鏡を用途別に用意し、必要に応じてプリズムを組み込む対応が望ましいです。

内科的治療の最適化

ドーパミン補充療法の調整は複視症状にも影響します。眼球運動機能はウエアリングオフに伴って変動しうるため、パーキンソン病治療薬を調節し、オフ時間帯を短縮することで複視が軽減することがあります。逆に幻視型複視が疑われる場合は、抗パーキンソン薬の減量や抗精神病薬の併用を検討します。

終わりに

パーキンソン病は「動き」だけでなく「見る力」にも影響します。複視は治療できるケースもあるため、「年のせいだろう」「どうせ治らない」とあきらめず、ぜひお気軽にご相談ください。

<参考文献>

Ungureanu L, Irincu L, Diaconu S, Oprițoiu B, Chaudhuri KR, Falup‑Pecurariu C. Diplopia in movement disorders: a systematic review of the literature. J Pers Med. 2024;14(3):270. doi:10.3390/jpm14030270. PubMed

Gupta P, Murray JM, Balta Beylergil S, Jacobs J, Kilbane CW, Shaikh AG, et al. Objective assessment of eye alignment and disparity‑driven vergence in Parkinson’s disease. Front Aging Neurosci. 2023;15:1217765. doi:10.3389/fnagi.2023.1217765. PubMed

Naumann W, Gogarten J, Schönfeld S, Klostermann F, Marzinzik F, Schindlbeck KA. Diplopia in Parkinson’s disease: indication of a cortical phenotype with cognitive dysfunction? Acta Neurol Scand. 2021;144(4):440‑9. doi:10.1111/ane.13479. PubMed

Racette BA, Gokden M, Tychsen L, Perlmutter JS. Convergence insufficiency in idiopathic Parkinson’s disease responsive to levodopa. Strabismus. 1999;7(3):169‑74. doi:10.1076/stra.7.3.169.636. PubMed

Śmiłowska K, Wowra B, Sławek J. Double vision in Parkinson’s disease: a systematic review. Neurol Neurochir Pol. 2020;54(6):502‑7. doi:10.5603/PJNNS.a2020.0092. PubMed

<執筆者プロフィール>

安部 真彰(あべ まさあき)
脳神経内科医/日本神経学会認定 神経内科専門医。山口大学医学部附属病院では 「パーキンソン病特殊治療外来」 を担当していました。現在は下松市のみずほ内科クリニック院長として内科、脳神経内科診療を行っています。パーキンソン病、アルツハイマー病などの神経疾患については周南市、光市など周南地区全体を診療圏としています。

パーキンソン病外来の案内はこちらから。

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